本と暮らしのあるところ だいかい文庫 店舗デザイン・施工

医師である守本陽一氏は、屋台を街中で引き回し道ゆく人々に無料でコーヒーを振る舞う、不思議で奇特な先生だ。しかし、そのコーヒーの裏には、医療とコミュニティとの関係を問い直し、これからの時代にあるべきソーシャルキャピタルの姿を求めようとする探究心がある。守本氏の東京での活動を見ていて、私たち流動商店メンバーは、氏の「ケア」と「まちづくり」という専門性はもちろん、なにより流動商店=屋台がフックになっている活動の楽しさに魅了されていた。

そんな守本氏から、「現在勤務する兵庫県豊岡市の商店街の一角に、本をテーマにした新しい拠点を作りたい」と相談を受けたのは、新型コロナウイルス感染症の足音が迫る2020年の初頭だった。豊岡と東京をZoomで繋ぎつつ話をしたものの、緊急事態宣言によりしばらく現地に行けず、ようやく三文字が現場を見ることができたのは夏の盛りも終わってからだった。

案内された豊岡では、豊岡劇場やオーベルジュ豊岡1925に代表される、豊かなリノベーション店舗の存在に感銘を受けた。他方、中心市街地の空き店舗のシャッターの多さも目についた。大開通りという立派なアーケードのあるメインストリートですら空き店舗が多い。今回、新しい店舗候補として守本氏が目をつけていたのも、大開通り沿いの路面に面した空き物件であった。このシャッター1枚(正確には2枚だったが)をオープンすることができたらどんなに良いだろう、と思った。

ここは元々マッサージ店だったという。ガラス扉には家族写真とカメラのウィンドウラッピングがされていたので、その前は写真店だったのだろう。そんな物件で、守本氏は新しい「シェアする図書館」を作るという。ありとあらゆる人が自分の本を棚に置くことができて、それを街の人に読んでもらえるような場所だ。

諸々の条件が整い、物件が決まったのが夏の終わり。流動商店から店舗デザインの提案をし、方向性が見えてきた秋になって、三文字と豊田で、工具を満載にしたトヨタ・プロボックスを運転し、豊岡に入った。

余計な壁や天井、床材をとっぱらい、天井を塗装し、開口部をきれいにする。全面に張り付いていた窓のラッピングシールを取ると、日差しが室内に降り注いだ。とても明るい店舗になると思えた。

内装には、現地で手に入れた杉足場板を主に使うこととした。今回の空間デザインの肝であった壁一面の本棚、読書机、カウンター、そして店頭のベンチは全て杉足場板で組み上げたのだが、杉の色合いと木目がそれぞれ楽しめる。そして何より、磨き上げた杉は、香りと手触りが良い。

外装には、この物件に元々あった内装材を再利用した。廃材をできるだけ減らしつつ、ウォールナットの木目で優しく仕上げた。レーザーでカットしたロゴを、柔らかい照明で上から照らし、商店街にも明かりが落ちるようにした。

10日ほど現地に滞在して空間を仕上げていく過程で印象的だったのは、道ゆく人からの声のかけられ方であった。常に道ゆく地元の方に覗き込まれ、そして「なんの店になるの?」と聞かれる。「本屋さんになります」と答えると、みんな喜んでくれる。さらに保育園の子どもの列が通ると、保育士さんが「みんな見て!本屋さんができているよ!」と紹介してくれるのだ。商店街のシャッターが開いて新しいお店ができる、これだけのことが、やはり大事なのだなと体感する出来事であった。

工期中は、我々流動商店メンバーのみならず、数々の地元の皆様に手伝っていただいた。地元高校生の皆さんも来てくれた。手伝ってもらうだけではなく、差し入れも数多くいただいた。守本氏と地域のつながりを感じさせてもらえた。

そんな風に出来上がった「だいかい文庫」は、2020年12月にオープンを迎えた。オープン日にはなんとわざわざ東京から本を置きに来た人までいた。今後とも、末永く豊岡で「だいかい文庫」が愛されていくことを心より願っている。㊂

date 2020.12
client 一般社団法人ケアと暮らしの編集社
Care to Kurashi no Henshusha
location 兵庫県豊岡市
Toyo-oka, Hyogo